TOPへ戻る

リカちゃんとは、2003年から特別な関係にあります。
私の「デザインの解剖」というプロジェクトで、歴史から身体の仕組み、目の中のハイライトの入れ方の変化に至るまで、徹底的に解剖させていただき、展覧会と本の出版をいたしました。
そのリカちゃんをクリエイターの力で新たな領域へお連れする。これが私に託されたミッションでした。
私は、ありとあらゆる方向に考えを巡らせましたが、最後に辿り着いたのは、何あろう自分が一番好きな世界へ、リカちゃんをお連れするということでした。


サーフィン

私は、波乗りから実に多くのことを学んでいます。
板一枚で大自然のうねりに寄り添いながら、環境の一部に溶け込んでいく。
こんなすばらしい世界にリカちゃんをお連れしたいと思ったのです。
まず、考えたことは単純でした。

リカちゃんをロングボードの上に、ちゃんと立たせたい。

波乗りをやってみたい人は、まず理屈より先に、海に行って波に乗る喜びを味わうことが大切です。
そして、リカちゃんをボードの上に立たせることができたら、子供のためのオモチャとしてではなく、サーフィンをしている大人が、リカちゃんを通して波に乗っている姿をちゃんとシミュレーションできる。 そう考えました。
しかし、そのような単純なことを実現させることが、実は大変なことだったのです。 リカちゃんの足は、もともと様々なクツを履けるように、足首はやや爪先立ちをするような角度に作ってあります。 つまり、そのままでは、平らなボードに立たせることはできません。 かといって足首を90度に直してみても、そのままではボードには立たせることができず倒れてしまいます。
そこで足首はそのままに、ボードの方にリカちゃんの足を固定する特別なブーツを作ることにしました。 プロトタイプを制作してリカちゃんに履かせ、ボードの上に立たせてみると、今度は両足の方向が真上に向かってしまい不自然なのです。 そこでブーツの角度を、リカちゃんの開いた足の角度に合わせて斜めに付けることにして、やっとボードとの関係が見えてきました。

このような試行錯誤を繰り返し、少しずつ調整して作り上げました。



日焼けは、肌に良くないことはリカちゃんでも知っていることですが、それでも波乗りをしているとどうしてもある程度は日焼けしてしまいます。その日焼けした肌の色の出し方も、腕や胸本体では素材が違うため合わせるのが大変なのです。(可愛いリカちゃんは、とっても手が掛かる)そしてロングボードは、このために特別に作り、ボードを運ぶ時に使用するボードケース、環境に配慮した水筒、波乗りをする時に足とボードを繋ぐリーシュコード、ビーチサンダル、ウエットスーツ、水着などを準備しました。



ウエットスーツと水筒に付いている「逆さに傘を持った人」のシルエットは、私が2007年から2008年にかけてディレクションした水の展覧会のシンボルマークです。

リカちゃんもここのところ環境に対してとても興味を持っていて、このプロジェクトに協力してくれることになりました。



私にとってのハワイ

ハワイに初めて降り立ったのは、もう25年ほど前のこと。それからほぼ1年に2回のペースで行っているので、回数とすれば50回くらいになるのだろうか。行き始めた頃から少しずつ購入してきた、アンティーク屋さんで売っている1940年代の日本製フラドールが100体以上集まってしまったことからも、つくづく飽きずに行っているものだと呆れてしまう。そのハワイの魅力について語りたいところだが、言葉にするとなんだかハワイの魅力は消え失せる。そのくらい気に入っているということである。だから当然のように、昔はハワイに住んでみたいなどと素敵な生活をイメージしたりもした。しかし、何度も行っているうちにその考えも変わってきた。どう変わってきたかというと、こうして東京に居てハワイを思い浮かべ、早く行きたいと想いをつのらせているこの状態こそが、もしかしたらとても幸せなのかもしれないと気付いたからである。

どのような環境も、それが普段のあたりまえの生活になれば、それは特別なことではなくなり、感謝の気持ちも薄れていく。美しい景色もあたりまえのものになり、感動することも減ってくるだろう。そう考えると、いつも行きたいと、まるで恋い焦がれるように思い続けることができた今までの状態が、すでにとてもいい状態だったということ。このことに気付くと、東京とハワイの、近くもなく遠くもないこの距離にですら感謝したくなる。ちょっと無理をすれば行くことができるこの絶妙な距離。行きたい気持ちを胸一杯に貯めて、やっとホノルル空港に降り立った時の、あの暖かくも爽やかな、そしてどこからともなく漂ってくる花の香りは、身体中の細胞が目を覚ますような体感を自覚させてくれる。

ああ、こんなことを考えていて、またハワイに行きたくなってしまった。「そうだ、今度はロングボードに乗れるようになったリカちゃんを連れて行こう!」そして、アンティーク屋さんにも一緒に行って、フラドール達にも会ってもらいたい。けっこう本気でそう思う、今日この頃なのである。

写真資料協力:ハワイ州観光局
http://www.gohawaii.jp/